今回紹介するのは思い切った土地活用の代表例といえます。
相談経緯
伊藤真一様(仮名・85歳)は配偶者を先に亡くしています。お子様は3人いらっしゃいますが、伊藤家の財産を子孫受け継いでいってもらうために、ほとんどの財産を長男に相続させたいと願っています。 伊藤真一様の相続対策の最大の問題点はご自身の「認知症が進んできたこと」。認知症と認定されると相続対策はできなくなるため時間はあまりありません。
提案内容
実際に真一様にご相続があった場合の相続税の申告書を作成した結果、相続税は約1億7,188万円発生することが分かりました。 財産総額は約6億522万円。そのほとんどを「土地」と「建物」が占めており、このままでは納税資金が全く足りません。
相続税を抑えることができるなら、できる限りのことをしたいというご要望でしたので、以下の2案をご提案しました。
- 1.長男の子どもを養子縁組すること
- 2.宅地化可能な山林を造成し収益物件を建築すること
これらを実行した場合、各々どのように相続税が変化するのか計算しました。
下記が実際の提案書の内容です。
伊藤真一様(仮名)相続税額シミュレーション
この度は相続税額シミュレーションをご依頼いただき誠にありがとうございます。 私は過去500件以上の相続税対策のアドバイスを行ってまいりましたが、精度の高いアドバイスを行うためには以下の順序があります。
Ⅰ 将来の相続税発生予想額を把握する
Ⅱ 相続対策を考える
Ⅲ 実行する
Ⅰ 将来の相続税発生予想額を把握する
伊藤真一様の相続税額をシミュレーションした結果相続税額は約1億7,188万円となりました。
仮に養子縁組を一人した場合の相続税は1億5249万円となり、養子縁組による節税効果は約1,939万円あるものと見込まれます。
Ⅱ 相続対策を考える
伊藤様の相続財産に占める各財産の割合は以下の通りとなります。
土地 | 609,770,156円 | 101% |
---|---|---|
家屋 | 175,452,312円 | 29% |
現金預金 | 20,000,000円 | 3% |
借入金 | -200,000,000円 | -33% |
合計 | 605,222,468円 | 100% |
伊藤様の相続財産の特徴は遺産に占める土地の割合が非常に高い点にあります。土地の占める割合が80%を超えるような財産構成の場合、相続税を下げる方法は「土地活用」か「土地売却による資産の組み換え」以外にありません。
今回は宅地化可能な山林を利用し、相続対策した場合の節税効果を計算してみました。山林の造成に約1億円、建物の建築に4億円、合計5億円の投資をした場合の節税効果は以下の通りです。
財産評価
資金 | 相続税評価額 | |
---|---|---|
土地 | 100,000,000円 | 64,000,000円 |
建物 | 400,000,000円 | 107,100,000円 |
合計 | 500,000,000円 | 171,100,000円 |
合計圧縮額 | -328,900,000円 |
節税効果
遺産総額 | 相続税額 | |
---|---|---|
対策前 | 605,222,468円 | 152,490,000円 |
対策後 | 276,322,468円 | 38,700,000円 |
節税効果 | -113,790,000円 |
結論的には5億円の投資により、相続税は3,870万円まで圧縮でき、投資による節税効果は1億1,379万あることが分かりました。
Ⅲ 実行する
伊藤真一様の場合、相続財産に課せられる相続税が大きいため、養子縁組を1人しただけで1,900万円以上の節税効果が見込めますので、将来的に伊藤家を継いでいくお孫さんを養子にされることをお勧めします。
それでも1億5,000万円以上の相続税が発生するため、相続税を劇的に減らすには「土地活用」か「土地売却による資産の組み換え」しか方法はありません。
現預金が2,000万円ほどしかないということもあり、何とか納税できる範囲まで相続税を下げようと思うと、相当大胆な対策が求められるでしょう。
上記の計5億円の投資には長期的にリスクがないとは言い切れませんが、節税効果との比較でどの程度の投資をされるか慎重かつ大胆な判断を早期に迫れることとなります。
この資料を参考にご家族でよく話し合われ、納得のいく決断をしていただければ幸いです。わからないことや不安に思うことがあれば何でも相談してください。
結論
伊藤真一様の相続税は現預金の長男の子どもの養子縁組と5億円の不動産投資により1億7,188万円の相続税が3,870万円程度まで軽減できることがわかりました。
この提案を受け結果的には以下のようになりました。
- 1.長男の息子を孫養子として迎え入れること
- 2.投資リスクを考え投資額は合計4億円に減額すること
- 3.認知症進行のリスクに備え、できるだけ早期に建築に着工すること
認知症になると相続対策はできなくなります。
相続対策をしたいけどできないというのが一番辛いもの。相続対策ができるうちにと家族で何度も話し合った結果、このような結論に至りました。保有財産の不動産割合が高いと大胆な対策をしなければ相続税を劇的に抑えることはできないため、重大な判断を短期間で迫られることが多々あります。
そんな時、様々な視点からリスクとリベートを捉え、思い切った判断を行うことで将来は大きく左右されるといえます。