税理士法人 松岡会計事務所

松岡会計事務所通信

【Vol.064】2026年05月号

2027年4月から手形取引廃止―中小企業が見直すべき資金繰りと借入の形―

最近、「手形がなくなるらしい」という話を耳にした経営者の方も多いのではないでしょうか。

実際、全国銀行協会は、2027年3月末までに紙の手形・小切手の交換を廃止すると案内しています。もっとも、2027年度初から直ちに法的に全面使用禁止になるわけではありませんが、電子交換所を通じた従来どおりの交換・決済は終了し、これまで通りの利用は難しくなっていきます。

この話を聞くと、「紙が電子になるだけではないか」「うちはあまり手形を使っていないから関係ないのではないか」と思われるかもしれません。

しかし、重要なのは、会社の資金繰りの前提が変わってしまう可能性があるという点です。

これまで手形は、単なる決済手段ではなく、「支払いを先に延ばせる」という資金繰りを下支えする機能も持っていました。

受け取った手形を金融機関で早めに現金化する「手形割引」や、支払手段として使う「裏書譲渡」は、売る側・買う側の双方にとって柔軟な資金調達手段でした。

そのため、紙の手形割引や裏書譲渡が使いにくくなること自体は、企業にとってマイナスです。特に、受取手形を資金化しながら回していた会社にとっては、これまで当たり前に使えていた“逃げ道”が狭くなるからです。

「電子化だから便利になる」とだけ見ると、実態を見誤ります。

紙の手形で支えていた資金繰りの柔軟性が薄れる以上、一定の悪影響は避けられません。

一方で、でんさいネットでは、受け取った電子記録債権を金融機関で割引して支払期日前に資金化することや、他社へ譲渡することが可能です。また、必要な金額だけを分割して譲渡・資金化する仕組みも案内されています。

今後は、「紙の手形割引」や裏書譲渡という資金調達機能が、「でんさい」へ移行していくという認識が必要となります。また、支払サイトの短縮も考えるべき点です。

公正取引委員会は、2024年11月1日以降、下請代金の支払手段として60日を超えるサイトの手形・でんさい等を用いた場合、下請法上の問題となるおそれがあるとして指導する方針を公表しました。

つまり、長いサイトで支払いを先送りする慣行そのものが、見直されていく流れにあります。

たとえば、実質120日近く先送りできていた支払いが、60日以内に近づけば、その分だけ早く現金を用意しなければなりません。

決済方法の変更だけで終わらせるのではなく、売掛金の回収条件、仕入や外注費の支払条件、在庫の持ち方まで含めて、必要運転資金を見直す必要があります。

取引金融機関の姿勢に注意

手形の廃止に伴い、金融機関がこれまで短期融資の定番としてきた「手形貸付」についても、新規取扱いの終了や縮小が進んでいます。

その代替として、今後の融資形態は、短期の証書貸付や当座貸越へ移行していくケースが多く見られます。

ここで注意したいのは、企業によっては追加の運転資金が必要になる場合があるということです。支払いサイトの変更によって生じる運転資金の増加は、資金繰りの悪化というより、事業運営に伴う正常な資金需要と見るべきです。

しかしながら、金融機関がすべての会社に同じように対応するわけではないのが現実です。

財務内容に問題のない会社であれば、借入の形を見直す前向きな相談に乗ってもらいやすいでしょう。

一方で、業績が悪化していたり、資金繰りが不安定だったりする会社については、金融機関が慎重な姿勢を取りやすくなります。

ここで注意したいのが、金融機関から、「手形がなくなるので、短期借入を分割返済型の長期借入に借り換えましょう」と提案されるケースです。

一見すると安心材料のように見えますが、この提案は慎重に検討する必要があります。なぜなら、運転資金には「所要運転資金」といって、事業を続ける限り常に必要な資金調達ニーズがあるからです。

これまで手形の転がしなど継続融資で調達してきた借り入れを、分割返済型の長期借入へ切り替えてしまうと、毎月の元金返済負担が増え、資金繰りを圧迫することになります。

借入期間を長くしたからといって、資金繰りが安定するわけではありません。

今から行うべきこと

まず取り組むべきことは、自社に必要な所要運転資金がいくらなのかを整理することです。

あわせて現在の借入形態を確認し、その金額が手形貸付や当座貸越などの短期継続融資で十分にカバーできているかを見直す必要があります。

もし不足が見込まれるのであれば、早めに取引金融機関へ相談し、融資枠の設定や短期継続融資の確保を進めることが重要です。

年金、社会保険料、税金から考える「早めのバトンタッチ」

「社長はできるだけ長く続けた方が得なのか」。

これは、多くの中小企業経営者が気になるテーマです。

2026年4月から在職老齢年金の基準額が見直され、賃金と老齢厚生年金の合計が月65万円までなら、以前より年金が止まりにくくなりました。

しかも、この基準額は固定ではなく、今後も毎年度の賃金動向に応じて見直される仕組みです。つまり、以前より「働きながら年金を受け取りやすい方向」に制度が動いているのは事実です。

そのため経営者の中には、「せっかくなら長く社長を続けながら、年金受給を遅らせて受給額を増やしたい」と考える方も少なくありません。

実際、制度だけを見れば、「長く働けば年金額が増える」というのは間違いではありません。ただし、注意したいのは、「年金額が増えること」と「実際の手取りが増えること」は同じではないという点です。

まず考えなければならないのが、在職老齢年金による支給停止。

現在は65万円まで緩和されたとはいえ、賃金と老齢厚生年金の合計がこれを超えると、超過分の2分の1相当が老齢厚生年金から停止されます。

つまり、以前より緩和されたとはいえ、高い役員報酬を取りながら年金もそのまま受け取れるわけではありません。

さらに見落としやすいのが、社会保険料の負担です。

社長として高めの役員報酬を受け続ければ、本人負担だけでなく会社負担も続きます。しかも今後は、厚生年金の標準報酬月額の上限が65万円から75万円へ段階的に引き上げられ、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円となる予定です。

つまり、「長く社長を続けて年金額を増やす」という発想は分かりやすいのですが、在職老齢年金による支給停止と社会保険料まで入れて考えると、必ずしも手取り額が増えるとは限らないのです。

早くもらうか、遅くもらうか ― 分岐点は80歳前後 ―

年金の受給開始を早めるか、遅らせるかを考えるとき、よく言われるのが「累計受取額の分岐点は80歳前後」という考え方です。

受給開始を遅らせるほど1年あたりの年金額は増えるため、長生きするほど繰下げ受給のメリットは大きくなりやすいからです。

繰下げ受給では、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに1か月当たり0.7%増額されます。

ここだけを見ると、「元気なうちは社長を続けて、年金受給は後ろにずらした方が得」と思いたくなるのも無理はありません。

ただし、この比較だけで結論を出すのは危険です。なぜなら、現役で働き続ければ在職老齢年金による支給停止があり、さらに役員報酬にかかる社会保険料負担も発生するからです。

加えて、一定額を超えれば年金にも所得税がかかります。

つまり、「受給開始を遅らせれば年金額は増える」としても、それがそのまま手取り全体の増加につながるとは限りません。

現実的に、70代後半から80代にかけて、健康状態や判断力、働き方がどう変わるかは不確定です。

そう考えると、「いずれ得になるはずだから」と期待して受給開始を遅らせることが、すべての経営者にとって最善とは言えません。

オススメのリタイアメントプラン

そこで、現実的な選択肢として浮かび上がるのが、早めに代表を退き、退職金を受け取り、非常勤役員として関わるという形です。

まず、代表を退いて役員報酬を支給停止にかかりにくい水準まで見直せば、老齢厚生年金をしっかり受け取りやすくなる可能性があります。

さらに、役員報酬が下がれば、本人と会社の社会保険料負担も大きく下がる可能性があります。

つまり、「社長を続けて高い報酬を受け取る」よりも、「少し早めにバトンタッチして、報酬を抑えながら年金をしっかり受け取る」ほうが、結果として手取り全体で有利になることがあるのです。

退職金は、原則として、次の計算により退職所得を計算します。

(退職金収入 - 退職所得控除額)× 1/2

そのため、役員報酬として毎年受け取り続けるより、税負担が軽くなりやすい所得です。

少し早めにバトンタッチし、自分は非常勤で支える立場に回れば、後継者は早い段階から責任を持って経営できるようになります。

さらに、自社株評価の引下げを踏まえた株式移転の検討もしやすくなります。つまり、早めの承継は、単に世代交代を進めるだけでなく、会社と個人の両面で選択肢を広げることにもつながるのです。

早めのリタイアが、結果的に会社にも、自分の手取りにも、良い答えになることは少なくありません。

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置(80%控除)は令和8年9月まで

インボイス制度開始後から、適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者等)からの課税仕入れは、原則的として仕入税額控除を行うことができません。

ただし、インボイス制度開始から一定期間は、免税事業者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を、仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

なお、経過措置を適用できる期間、割合は下表の通りです。(令和8年税制改正により、控除割合が見直され、70%と30%の区分が加えられています)

期間 割合
令和5年10月1日 から
令和8年9月30日 まで
仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日 から
令和10年9月30日 まで
仕入税額相当額の70%
令和10年10月1日 から
令和12年9月30日 まで
仕入税額相当額の60%
令和12年10月1日 から
令和13年9月30日 まで
仕入税額相当額の50%

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