通常の贈与は、送る側が「あげます」と相手先に伝え、相手側が「もらいます」と伝えることで成立します(民法第549条)。
しかし相続税法には、このような合意がなくても贈与があったものと認定して贈与税を課税する【みなし贈与】の規定が存在します。
みなし贈与については相続税法第9条に定められており、
「対価を支払わないで…利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額…を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。」
と記載されています。
要約すると
「対価を払わずに利益を得た人は、その利益を贈与してもらったものとみなします」ということになります。
そのため財産を直接もらっていなくても、贈与があったものとみなされ贈与税が課税される場合があります。
例えば以下のようなケースです。
・親から不動産を時価より安く買った場合(低額譲渡)
時価1億円の土地を親から特別に1,000万円で購入したような場合には、時価に満たない部分(9,000万円)は対価を払わずに取得している(利益を受けている)ため、贈与により取得したものとみなされます。
・親が保険料を負担した生命保険の満期保険金を受け取った場合
保険契約者(保険料負担者)が親、満期保険金の受取人が子となっている生命保険契約について、子が受け取る満期保険金は直接親から贈与されたものではありませんが、対価を払わずに受けた利益のため満期保険金相当額の贈与を受けたものとみなされます。
・親が借金を肩代わりした場合
親が子の借金を代わりに支払った場合には、直接金銭を渡したわけではありませんが、子は債務の減少という利益を得ているため、代わりに支払ってもらった借金と同額の贈与を受けたものとみなされます。
※ただし、返済能力がなく返済が困難な扶養義務者の債務を肩代わりする場合はこの限りではありませんので、子に財産や収入がなく返済困難と認められる場合にはみなし贈与にはなりません。
・配偶者名義の預金の私的利用があった場合
認知症の夫の預貯金を妻が私的に使いこんでいた事案について、妻が私的利用のために口座から引き出した金額は、妻へのみなし贈与であると認定した裁決例があります。このようにお互い合意していないため本来は贈与に当たらない行為でも、みなし贈与として課税される可能性があります。
なお、みなし贈与における利益とは経済的利益(財産の増加又は債務の減少等)に限定されるため、仕事を手伝ってもらうなどの労務提供を無償で受けた場合でも、みなし贈与には該当しません。
また、みなし贈与が相続開始前3年以内に行われたものであれば、以前のブログでもご紹介したとおり相続税の課税対象になることもあります。
(相続税の課税対象に加算された贈与財産についての贈与税は、相続税から控除されますので二重課税にはなりません)
直接財産を贈与しない場合でも、このようなみなし贈与に当たらないかは、十分にご注意ください。